本記事では、労働保険の年度更新について、その重要性と具体的な手続きの流れを詳細に解説しています。

事業主や従業員が労働保険の年度更新に関する知識を深め、正確な手続きを行うための参考となることを目指しています。

1.労働保険とは何か?

労働保険は、事業主が従業員を雇用する際に必ず加入しなければならない保険制度です。この制度は、労働者が業務上の事故や病気、失業などのリスクに直面したときに、経済的な支援を提供することを目的としています。労働保険は大きく分けて、労災保険と雇用保険の二つから成り立っています。

労災保険は、労働者が仕事中や通勤途中に事故に遭遇したり、職業病にかかったりした場合に、治療費や休業補償、障害給付などを支給する制度です。この保険は、労働者が安心して働ける環境を提供することで、事業主と労働者双方のリスクを軽減します。

療養給付:怪我や病気で治療が必要な場合に支給される給付です。

休業補償:怪我や病気で仕事を休んだ期間の給料の一部を補償します。

障害給付:事故や病気が原因で障害が残った場合に支給されます。

遺族給付:労働者が事故や病気で亡くなった場合、その遺族に支給されます。

雇用保険とは

雇用保険は、労働者が失業した際に、失業給付を通じて生活の安定を図り、再就職を支援する制度です。失業給付のほかにも、職業訓練を受けるための支援や、育児・介護休業中の労働者への給付もあります。これにより、労働市場の柔軟性と労働者のキャリア形成を支援しています。

失業給付:失業した労働者に対して、一定期間、生活を支えるための給付を行います。

職業訓練給付:再就職に向けたスキルアップを目的とした訓練を受ける際に支援します。

育児・介護休業給付:家族の育児や介護のために休業する労働者に対して、給付を行います。

労働保険の重要性

労働保険は、労働者が安心して働き続けるための安全網として機能します。事業主にとっては、従業員を守ることで、企業の持続可能性と社会的責任を果たすことにもつながります。また、労働保険は事業主と労働者の間で共有されるべき重要な情報であり、適切な手続きと理解が必要です。

このように、労働保険は労働者と事業主双方にとって欠かせない保護措置であり、その運用と更新は非常に重要な業務の一つです。年度更新は、これらの保険料の適正な管理と、事業主と労働者の安全と福祉を確保するためのものです。

2.年度更新プロセス

年度更新は、事業主が毎年行う必須の手続きであり、労働保険料の正確な算出と納付を目的としています。

このプロセスは、事業主が労働保険に加入している全ての事業所に対して、4月1日から翌年3月31日までの期間を対象に行われます。

ここでは、年度更新の流れを詳しく解説します。

1. 必要書類の受領と確認

年度更新の手続きは、まず労働局から送付される「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」(以下、申告納付書)の受領から始まります。この書類は毎年5月末日までに事業主に送付され、事業主は書類を確認し、記載内容に誤りがないかをチェックします。万が一、書類が届かない場合や内容に誤りがある場合は、速やかに所轄の労働局に連絡を取ります。

確認するべき項目

・「常時使用労働者数」「雇用保険被保険者数」「免除対象高年齢労働者数」
・申告済概算保険料と確定保険料との差額を元に算出する「充当額」もしくは「不足額」
・概算保険料の納付回数
・期別納付額欄(一定の条件に当てはまり、概算保険料の延納を希望する場合)
・事業又は作業の種類
・加入している労働保険
・特掲事項
・事業
・事業主
・領収済通知書の各項目

2. 保険料の算出

保険料の算出は、事業所ごとに行われます。算出には二つの主要なステップがあります。

まず、「前年度分の正確な計算(確定保険料)」と「今年度分の概算の計算(概算保険料)」を行います。

これには、全従業員の賃金総額に基づいて、労災保険料と雇用保険料、そして一般拠出金を計算します。計算の基礎となる賃金総額は、前年度の実績と今年度の予測に基づいています。

3. 書類の作成と提出

算出した保険料をもとに、申告納付書に必要事項を記入します。この作業には、従業員数や賃金総額などの詳細情報が必要です。作成した申告納付書は、6月1日から7月11日の間に所轄の労働局または労働基準監督署に提出します。

提出期間を遵守することが重要であり、期間を過ぎると遅延が発生する可能性があります。

4. 保険料の納付

申告納付書の提出後、労働局から納付書が送付されます。この納付書に基づいて、指定された金融機関に保険料を納付します。口座振替を選択している場合は、納付書の代わりに口座振替日の案内が届きますので、指定日に口座の残高を確認してください。

この一連のプロセスを通じて、事業主は労働保険の年度更新を完了させます。年度更新は、事業主と従業員の安全を守るための重要な手続きであり、正確な保険料の算出と納付が求められます。

3.必要書類の受け取りと確認

労働保険の年度更新プロセスにおいて、最初の重要なステップは、必要な書類の受け取りとその内容の確認です。この段階は、事業主が年度更新をスムーズに進めるための基盤を築くことに他なりません。以下では、どのような書類が必要で、受け取った後に何を確認すべきかを詳しく説明します。

受け取るべき主要な書類

年度更新のためには、「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」(以下、申告納付書)が必要です。この書類は毎年5月末日までに、労働局から事業主宛に送付されます。申告納付書には、事業主が年度更新の手続きを行う上で必要な情報が記載されています。

書類の確認ポイント

申告納付書を受け取ったら、以下のポイントを確認することが重要です。

労働保険番号:事業所ごとに割り振られる固有の番号です。この番号が正確であることを確認してください。

事業の所在地・名称:事業所の住所や名称に誤りがないかをチェックします。

保険料率:労災保険料と雇用保険料の率が正しく記載されているかを確認します。

これらの情報に誤りがある場合は、速やかに所轄の労働局に連絡し、訂正を依頼する必要があります。

書類が届かない場合の対応

万が一、5月末日を過ぎても申告納付書が届かない場合は、事業主は自ら積極的に所轄の労働局に問い合わせる必要があります。書類の未着は、年度更新の遅延につながる可能性があるため、早めの対応が求められます。

確認後の手続き

書類の内容を確認し、必要な訂正がないことを確かめた後は、次のステップである保険料の算出に進みます。この書類の正確な確認は、年度更新プロセスをスムーズに進めるために不可欠です。

この段階を丁寧に行うことで、事業主は年度更新の手続きを正確に、かつ迅速に進めることができます。必要書類の受け取りと確認は、労働保険の年度更新を成功させるための第一歩と言えるでしょう。

4.保険料の算出方法

労働保険の年度更新における中心的なプロセスの一つが、保険料の算出です。この段階では、事業主は過去一年間の労働保険料の正確な計算(確定保険料)と、次年度の保険料の概算(概算保険料)を行います。ここでは、これらの保険料を算出するための具体的な方法について詳しく解説します。

確定保険料の算出

確定保険料の算出は、前年度の実際の賃金総額に基づいて行います。この計算には以下のステップが含まれます。

賃金総額の確定:全従業員の前年度の賃金総額を集計します。

保険料率の適用:集計した賃金総額に、労災保険料率と雇用保険料率をそれぞれ適用します。

一般拠出金の計算:賃金総額に一律の一般拠出金率(0.002%)を適用します。

このプロセスを通じて、前年度における実際の保険料額が確定します。この確定保険料は、概算保険料と比較され、差額がある場合は調整が行われます。

概算保険料の算出

次年度の概算保険料の算出は、確定保険料の計算と同様の手順で行いますが、賃金総額は予測値を使用します。この予測は、前年度の実績や事業の見込みに基づいて行います。

予測賃金総額の算定:次年度における全従業員の賃金総額を予測します。

保険料率の適用:予測した賃金総額に対して、労災保険料率と雇用保険料率を適用します。

一般拠出金の計算:予測賃金総額に一般拠出金率を適用し、計算します。

概算保険料は、次年度の保険料の予測額として使用され、事業主はこの額に基づいて保険料を納付します。次年度の実際の賃金総額が確定した後、概算保険料との差額が調整されます。

保険料算出の重要性

保険料の正確な算出は、事業主にとって非常に重要です。これにより、労働保険の適切な運用が保証され、従業員が業務上の事故や失業に遭遇した際に、適切な補償を受けられるようになります。また、保険料の過不足が生じないようにすることで、事業主の財務的な負担を適正に保つことができます。

このプロセスを通じて、事業主は労働保険の年度更新を正確に行うことができ、労働保険制度の適切な運用に貢献します。保険料の算出は、事業運営の一環として正確に行う必要があり、事業主の責任の表れです。

参考リンク:令和6年度の労災保険率について(令和6年度から変更されます)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/rousai_hokenritsu_kaitei.html

5.書類の提出と保険料の納付

労働保険の年度更新プロセスの最終段階は、必要な書類の提出と保険料の納付です。この段階は、事業主が計算した保険料を正式に報告し、納付することを要求します。以下では、このプロセスをスムーズに進めるための具体的な手順を詳しく説明します。

書類の提出

申告納付書の完成:前段階で算出した保険料を基に、申告納付書に必要事項を記入します。この書類には、確定保険料と概算保険料の両方が含まれます。

提出期間の確認:申告納付書は、毎年6月1日から7月11日の間に提出する必要があります。この期間を遵守することが重要です。

提出先の確認:申告納付書は、所轄の労働局または労働基準監督署に提出します。提出方法は、直接持参するか、郵送で行うことができます。

保険料の納付

納付書の受領:書類を提出すると、労働局から保険料の納付書が送付されます。この納付書には、納付すべき保険料の額と納付方法が記載されています。

納付方法の選択:保険料は、指定された金融機関に持参して納付するか、口座振替を選択することができます。口座振替を選択した場合は、納付書の代わりに口座振替日の案内が届きます。

納付期限の確認:保険料は、納付書に記載された期限内に納付する必要があります。期限を守ることで、遅延金の発生を避けることができます。

保険料納付後の確認

保険料を納付した後は、納付が正確に行われたことを確認することが重要です。金融機関からの領収書や口座振替の通知を保管し、記録として残しておきましょう。これにより、将来的に納付の確認が必要になった場合に備えることができます。

書類の提出と保険料の納付は、労働保険の年度更新プロセスの最終段階であり、事業主の責任として正確に行う必要があります。

このプロセスを適切に完了することで、事業主は労働保険の恩恵を受ける資格を維持し、従業員を保護するための準備を整えることができます。正確な保険料の算出と期限内の納付は、事業運営の重要な部分であり、事業主と従業員双方の安全と福祉を確保するために不可欠です。

6.用語解説

事業主や従業員が理解しておくべき重要な用語がいくつかあります。これらを理解することで、年度更新のプロセスがより明確になり、手続きをスムーズに進めることができます。以下に、主要な用語を解説します。

労災保険

業務上の事故や通勤途中の事故による負傷、疾病、障害、死亡等に対して給付を行う保険です。

雇用保険

従業員が失業した際に、生活の安定や再就職を支援するための給付を行う保険です。

申告納付書

年度更新の際に事業主が受け取る書類で、労働保険料の概算額や確定額を申告し、納付するために使用します。この書類には、事業所の情報や前年度の賃金総額、保険料率などが記載されています。

保険料率

労働保険料を算出する際に使用する率で、労災保険料率と雇用保険料率があります。これらの率は、賃金総額に乗じて保険料を計算する際に使用されます。

確定保険料

前年度の実際の賃金総額に基づいて計算される保険料です。年度終了後に正確な額が確定します。

概算保険料

次年度の保険料を予測して計算される額です。実際の賃金総額が確定する前に、予測値に基づいて納付されます。

まとめ

労働保険の年度更新は、事業主にとって非常に重要な手続きです。このプロセスを通じて、事業主は労災保険と雇用保険の保険料を正確に算出し、適切な時期に納付することが求められます。年度更新の手続きは、必要書類の受領から始まり、保険料の算出、書類の提出、そして保険料の納付というステップを踏みます。各ステップで正確な情報と計算が必要とされ、事業主の責任のもとに行われます。

また、労働保険の年度更新に関連する用語には、労働保険、申告納付書、保険料率、一般拠出金、確定保険料、概算保険料などがあります。

これらの用語を正しく理解することは、手続きをスムーズに進めるために不可欠です。特に、保険料の算出には、前年度の賃金総額や予測される賃金総額をもとに計算されるため、事業主はこれらの数値を正確に把握しておく必要があります。

労働保険の年度更新を適切に行うことで、事業主は従業員を業務上のリスクから守り、安定した労働環境を提供することができます。また、保険料の適正な納付は、事業運営の責任を果たすという点でも重要です。事業主は、この年度更新プロセスを通じて、自身の事業だけでなく、従業員の福祉にも貢献することができるのです。

この記事の監修

植村悦也
植村悦也
税務調査専門の税理士

元税務署長・元マルサ担当官などをパートナーに、税務調査専門の税理士として年間100件以上の相談を受ける税務調査対策のプロ。
追徴税額を0円にした実績も数多く、Googleクチコミ4.9という人気を得ている。