本稿では、税理士試験の受験資格に関する改正について詳しく解説しています。

改正の主な内容は、会計学科目の受験資格の不要化と税法科目の学識緩和に関するもので、これにより税理士試験へのアクセスが大幅に広がりました。

これらの改正がどのようにして多くの人々に新たな機会を提供するのか、また、会計業界における人材の多様化がどのように社会全体の発展に寄与する可能性があるのかについて、具体的な例を交えながら解説しています。

1.税理士試験受験資格の変更点

税理士試験の受験資格が、令和5年度の税理士試験(第73回)から、大きく変わりました。
税理士試験の受験資格の見直しについて|国税庁

これは、税理士という職業に興味を持つ多くの人々にとって、画期的なニュースです。令和4年度の税制改正を受け、令和5年度から実施される税理士試験(第73回予定)で、これらの変更が適用されます。この改正は、税理士を目指す人々にとって、より多くの機会を提供することを目的としています。

改正の背景には、税理士試験の受験者数が過去数年にわたり減少しているという現状があります。この傾向を反転させ、より多様なバックグラウンドを持つ人材が税理士試験に挑戦できるようにするため、受験資格の条件を見直すことが必要とされました。

改正の主なポイントは、特に会計学に関連する科目の受験資格要件の撤廃、および税法科目の受験資格における学識要件の緩和です。これまで、税理士試験を受験するためには、特定の学歴要件を満たすか、または特定の資格を保持している必要がありました。しかし、この改正により、それらの制約が大幅に緩和されます。

具体的には、会計学に属する科目である「簿記論」と「財務諸表論」の受験資格がなくなりました。これは、これらの科目が税理士試験の中核をなすものであり、専門知識を評価する上で非常に重要であるにもかかわらず、これまでの受験資格要件が一部の人々にとって大きな障壁となっていたことを考慮したものです。この変更により、「簿記論」と「財務諸表論」は、特定の前提条件なしに誰もが挑戦できる科目となりました。

さらに、税法科目に関しては、受験資格の学識要件が「法律学または経済学に属する科目」から「社会科学に属する科目」へと拡大されました。これにより、法律学や経済学だけでなく、社会学や政治学、心理学など、より広い範囲の科目を履修している人々も税法科目の受験資格を得られるようになります。

これらの改正は、税理士試験へのアクセスを広げることで、より多くの人々が専門職としてのキャリアを追求する機会を持てるようにすることを目指しています。高校生から社会人まで、より広い範囲の人々が税理士試験に挑戦しやすくなることで、税理士という職業の多様性と専門性がさらに高まることが期待されます。このような環境の変化は、将来の会計業界にとっても、明るい展望を開くものとなるでしょう。

2.会計学科目の受験資格不要化とは

税理士試験における会計学科目の受験資格不要化は、会計や税務の専門家を目指す人々にとって大きな変革です。これまでは、会計学科目を受験するためには一定の教育水準や特定の資格が必要でした。

しかし、この改正により、「簿記論」と「財務諸表論」という2つの重要な科目が、どなたでも受験することが可能になりました。

「簿記論」は、企業の財務状況を正確に把握し、報告するための基本となる知識を提供します。一方、「財務諸表論」は、企業の財務諸表の作成や分析方法を学ぶ科目であり、税理士としての業務を遂行する上で不可欠なスキルです。これらの科目は、税理士を目指すうえで避けては通れない道であり、従来はこれらの科目を受験するためには、大学での特定の学科を履修しているか、または日商簿記検定1級や全経簿記検定上級などの資格を持っている必要がありました。

この制度変更の背景には、税理士という職業へのアクセスを広げ、より多様なバックグラウンドを持つ人材を業界に迎え入れる意図があります。従来の制度では、会計や税務の知識を持ち合わせていても、受験資格のハードルに阻まれるケースが少なくありませんでした。しかし、これらの変更により、高校生や大学1年生を含む、より幅広い層の人々が税理士試験への挑戦を決意できるようになりました。

この改正は、会計業界における人材育成の機会を大きく広げると同時に、税理士を目指す人々にとっての大きなチャンスと言えます。会計学の知識を深め、実務能力を高めたいと考えている人々にとって、これまで以上にアクセスしやすくなった税理士試験は、自らのキャリアを形成する大きなステップとなるでしょう。

3.税法科目の受験資格の学識緩和

税法科目の受験資格における学識の緩和は、税理士試験の改正の中でも特に重要なポイントです。従来、税理士試験の税法科目を受験するためには、大学等で法律学または経済学に属する科目を少なくとも1科目履修している必要がありました。この要件は、税理士として必要な知識の基礎を持っていることを確認するためのものでしたが、この基準が多くの受験希望者にとって大きなハードルとなっていました。

この改正により、受験資格が「社会科学に属する科目」に拡大され、学識の範囲が大幅に広がりました。社会科学には、法律学や経済学のみならず、社会学、政治学、心理学、統計学など、多岐にわたる学問分野が含まれます。この変更は、より多くの学生や社会人が税理士試験に挑戦できるようになることを意味しています。特に、文系や理系を問わず、さまざまな学問背景を持つ人々が、税理士という専門職にアクセスしやすくなります。

たとえば、社会学や心理学を専攻している学生は、従来は税理士試験の受験資格を得ることが難しいと考えられていました。しかし、この改正により、これらの学問を学ぶ学生も、税法科目の受験資格を得ることが可能になります。これは、税理士としての知識だけでなく、社会のさまざまな側面を理解する視点も重要であることを反映しています。

また、この緩和は、税理士業界に新たな風を吹き込む可能性を秘めています。異なる学問背景を持つ人々が税理士になることで、より幅広い視野を持った税理士が増え、業界全体のサービスの質の向上につながることが期待されます。税理士の仕事は、数字を扱うだけでなく、クライアントの多様なニーズに応えることも求められます。そのため、さまざまな学問分野から得られる知識や視点は、税理士としての業務をより豊かにし、クライアントに対するアドバイスの質を高めることに貢献するでしょう。

この学識の緩和は、税理士を目指す人々にとって大きなチャンスです。これまで税理士試験を諦めていた人も、自分の持っている知識や経験が新たな価値を生み出す可能性があることを再認識し、挑戦を決意するきっかけになるかもしれません。

4.誰にとってもチャンスが広がる

改正された税理士試験の受験資格は、多くの人にとって新たなチャンスの扉を開きました。これまで、特定の学歴や資格を必要としていた受験資格が大幅に緩和されたことで、会計や税務の専門家を目指す道が、より多くの人々にとって開かれたのです。

高校生や大学生にとってのチャンス

特に、高校生や大学生にとってこの変更は大きな意味を持ちます。以前は、特定の教育課程を経ていないと税理士試験を受験することができなかったため、多くの若者が専門的なキャリアを早期に目指すことが困難でした。しかし、会計学科目の受験資格不要化により、これらの科目に興味を持つ高校生や大学生でも、早い段階で専門職への道を探求することが可能になりました。これは、若い世代が専門知識を深め、将来に向けて準備を始める絶好の機会を意味します。

社会人の再チャレンジ

また、社会人にとってもこの改正は大きなチャンスです。これまでのキャリアや専門分野が異なる人々でも、税理士という新たな専門職に挑戦できるようになりました。特に、学識の緩和により、様々な分野での経験や知識を持つ人々が税理士試験に挑むことが可能になったことは、多様なバックグラウンドを持つ人材が会計業界に参入し、新しい視点やアイデアをもたらす機会を創出しています。これにより、業界全体のイノベーションやサービスの質の向上が期待されます。

多様な学問背景を持つ人々への招待

さらに、税法科目の受験資格の学識緩和は、文系学部や理系学部など、多様な学問背景を持つ学生や社会人に税理士試験の門戸を広げています。これまでは、特定の学問分野に限定されていた受験資格が、社会科学の広い範囲に拡大されたことで、より多くの人々が自分の持つ知識や経験を生かして税理士という職業に挑戦できるようになりました。これは、税理士業界がより包括的で多様な才能を求めていることの現れであり、新たな視点やアプローチが業界にもたらされることが期待されます。

総じて、税理士試験の受験資格の改正は、学生から社会人、さらには異なる専門分野からの転職を考える人々にまで、広い範囲で新たなチャンスを提供しています。この機会を活用して、多くの人々が自分の夢やキャリアの目標に向かって前進することを期待しています。会計業界における才能の多様化は、社会全体の発展にも寄与するでしょう。

まとめ

税理士試験の受験資格に関する最近の改正は、多くの方々にとって大変意義深いものとなりました。

これまでにないほど多くの方が税理士という専門職に挑戦できる機会が与えられたことは、個々人のキャリア開発においても、会計業界の発展においても、非常に重要な一歩と言えるでしょう。特に、会計学科目の受験資格不要化と税法科目の学識緩和は、学生から社会人、異なる専門分野からの転職を考えている方々にまで、新たな可能性を広げています。この改正が、多様なバックグラウンドを持つ人々が税理士という職業に挑戦し、新しい価値を生み出すきっかけとなることを心から願っています。

この記事の監修

植村悦也
植村悦也
税務調査専門の税理士

元税務署長・元マルサ担当官などをパートナーに、税務調査専門の税理士として年間100件以上の相談を受ける税務調査対策のプロ。
追徴税額を0円にした実績も数多く、Googleクチコミ4.9という人気を得ている。