一般的に個人事業主からの法人化(法人成り)は、税金対策の手段として行われるイメージがありますが、法人化の判断基準は節税要素だけではありません。 そこで今回は、法人化すべきか検討する際の判断材料となる2つのポイントについてご説明します。

法人化は「節税」と「信用」の観点から判断すべき

法人化は、すべての個人事業主に勧められるものではありません。 個人事業主には、法人にはないメリットもありますし、法人化することで被るデメリットも存在します。 また個人から法人に事業形態を変える場合、「節税」と「信用」の視点から検討してください。 支払う税金が減少すれば、その分手元に資金が残りますし、社会的信用が高まれば個人よりも事業を発展させやすくなります。

法人は個人よりも節税手段が豊富に存在する

個人事業主と法人の違いは、課される税率と節税できる範囲です。 課される税率が低ければ、利益が出ても支払う税金は少なく済みます。 また課税対象となる金額がゼロなら、所得税(法人税)を支払う必要がありません。 そのため経費として計上できる費用も、税金対策には重要です。

利益が多くなるほど所得税は法人税よりも税率が高くなる

個人事業主は利益に対して所得税、法人は法人税の課税対象です。 所得税と法人税で適用される税率は異なり、所得税は課税所得金額に応じて6段階、法人税は2段階に分かれています。 【所得税の税率の速算表(平成27年分以降)】

課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超~
330万円以下
10%97,500円
330万円超~
695万円以下
20%427,500円
695万円超~
900万円以下
23%636,000円
900万円超~
1,800万円以下
33%1,536,000円
1,800万円超~
4,000万円以下
40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

【法人税の税率(事業開始年度平成31年4月1日以降)】

課税所得金額税率
800万円以下の部分15%
800万円超の部分23.2%

普通法人でかつ、資本金1億円以下の法人などに該当する場合 課税所得金額が少ない場合には、法人税よりも所得税の方が納める税金は少ないです。 しかし課税所得金額が900万円になると、所得税と法人税の税負担は同じくらいなります。 また課税所得金額1,000万円を超えたあたりから、法人税よりも所得税の税負担が重くなりますので、法人化を検討されている人は、課税所得金額1,000万円を一つの目安にしてください。

課税所得金額900万円の所得税・法人税の税額計算

〇所得税 900万円×23%-636,000円=1,434,000円〇法人税 800万円×15%=1,200,000円 (900万円-800万円)×23.2%=232,000円 1,200,000円+232,000円=1,432,000円

課税所得金額1,000万円の所得税・法人税の税額計算

〇所得税 1,000万円×33%-1,536,000円=1,764,000円〇法人税 800万円×15%=1,200,000円 (1,000万円-800万円)×23.2%=464,000円 1,200,000円+464,000円=1,664,000円

収入を分散化させることで税率を抑えることも可能

会社を設立した場合には、会社から役員報酬として給与を得ることになります。 会社にとって役員報酬は経費あり、報酬金額が多ければ、その分法人税の課税対象金額が減少します。 また税金の対象を法人税と所得税に分散させることで、それぞれに適用する税率を抑えることも可能です。 そして役員報酬は『給与所得』として所得税の対象となりますが、給与所得は給与収入から給与所得控除を差し引いた後の金額が所得金額となります。 個人事業主の所得は『事業所得』なので、役員報酬は給与所得控除分だけ所得税を節税できます。 【給与所得控除額(令和2年分以降)】

給与等の
収入金額
給与所得控除額
180万円以下 収入金額×40%-100,000円 550,000円に満たない場合には、
550,000円
180万円超~
360万円以下
収入金額×30%+80,000円
360万円超~
660万円以下
収入金額×20%+440,000円
660万円超~
850万円以下
収入金額×10%+1,100,000円
850万円超1,950,000円(上限)

社会的信用は個人よりも法人の方が高い

社会において、個人事業主と法人の社長では、相手に与える印象が違います。 また仕事内容は同じでも、法人化するだけで取引相手や銀行からの信用度が変わります。

法人相手のみしか対応しない事業者との取引が可能になる

法人並みの事業規模の個人事業主もいる一方で、継続的な取引をするにはリスクが高い個人事業主も存在します。 リスクの高い相手と取引するメリットはありませんので、リスク回避の観点から個人事業主と取引を行わない会社は少なくありません。 しかし法人化すれば、個人事業主時代に交渉できなかった会社とも取引することも可能になりますので、事業を拡大しやすくなります。

銀行からの融資は個人よりも法人の方が受けやすい

事業規模が大きくなると、銀行からの融資を受ける機会も出てきますが、個人事業主は銀行からあまり信用されません。 個人事業主は収入が不安定であるため、同じ所得の会社員よりも借りられる金額が少なく、返済期間が短くなるケースもあります。 また返済リスクがあると判断されれば、利息は高くなりますので、その分返済金額も多くなります。 それに対し法人が銀行から融資を受けようとする場合、財務省表などで資産や経営状況を確認できるため、個人事業主よりも融資が受けやすいです。 そして信用を積み重ねれば、融資額も増額できますので、今後事業規模を拡大する予定がある人は、資金調達の側面も法人化する理由の一つになります。

法人化する際は専門家からの客観的な意見も取り入れること

毎年一定水準以上の収益がある個人事業主は、法人化による恩恵を受けられる可能性が高いです。 しかし法人化には登記手続きが必要であり、役所などに提出する書類は個人事業よりも多くなります。 また手続きや書類の提出期限は個人よりも厳格ですので、法人化を予定している場合には、事前に税理士などの専門家に相談することをオススメします。

この記事の監修

植村悦也
植村悦也
税務調査専門の税理士

元税務署長・元マルサ担当官などをパートナーに、税務調査専門の税理士として年間100件以上の相談を受ける税務調査対策のプロ。
追徴税額を0円にした実績も数多く、Googleクチコミ4.9という人気を得ている。

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