法人成りとは、事業形態を個人から法人に切り替えることをいいます。
税金対策の一環で法人成りをするケースもありますが、節税以外のメリットも存在するため、長期的に事業経営をする場合には法人化することも検討すべきです。
ただ個人から法人に変更する際の手続きや、法人に成ったときに注意すべきポイントもありますので、本記事で法人成りのメリット・デメリットについてご説明します。

法人化による3種類のメリット

法人化のメリットは、大きく分けて3種類あります。

  • 節税
  • 社会的信用
  • 事業承継

節税効果は法人成りの大きなメリットですが、事業を行う上で社会的信用や事業承継のメリットも注目すべきいポイントです。

メリット1 利益を出している事業であれば法人税の方が安い

個人事業主と法人の最も大きな違いは、課税される税金の種類が異なる点です。
個人事業主は所得税、法人は法人税として税金を納めますが、同じ課税所得金額でも課される税率は異なります。

【所得税の税率の速算表(平成27年分以降)】

課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超~
330万円以下
10%97,500円
330万円超~
695万円以下
20%427,500円
695万円超~
900万円以下
23%636,000円
900万円超~
1,800万円以下
33%1,536,000円
1,800万円超~
4,000万円以下
40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

【法人税の税率(事業開始年度平成31年4月1日以降)】

課税所得金額税率
800万円以下の部分15%
800万円超の部分23.2%

※普通法人でかつ、資本金1億円以下の法人などに該当する場合

課税所得金額が少ない場合、所得税の税率が低いため、事業規模が小さいと節税面の恩恵は受けられません。
しかし課税所得金額が900万円になると、所得税よりも法人税の納税金額の方が低くなるため、利益が多い個人事業主ほど、法人成りによる節税効果は高いです。
また法人は、個人事業主よりも経費計上できる支出が多いのも特徴です。
個人事業主の場合、仕事とプライベートの両方で使用している物は、仕事部分の割合しか経費として計上できません。
しかし法人には仕事とプライベートの区別はありませんので、法人が購入した物はそのまま費用計上できます。
ただ法人の事業に必要のない支出については、経費に算入できませんのでご注意ください。

メリット2 法人の方が社会的信用度は高い

社会的信用とは、仕事上の取引や銀行から融資を受ける際に必要なものです。
社会的信用度が低ければ、取引に応じてくれる会社も少ないですし、銀行の融資審査も厳しくなります。
事業形態で社会的信用を考えた場合、個人事業主よりも法人の方が信用されやすいです。
そのため事業規模拡大する場合には、法人に事業形態を変更し、社会的信用度を高める選択肢もあります。

メリット3 生前中に事業を引き継ぐことが可能に

個人事業主の場合、生前中に事業承継を行うとなると、贈与により財産を渡さなければなりません。
贈与金額が高額になれば、贈与税額も増えますので、無駄な税金の支払いが発生します。
また相続の場合、相続人間で遺産分割協議を行いますが、事業用資産も相続財産ですので、他の相続人が権利を主張する可能性も否定できません。
しかし法人成りをしていれば、生前中から子が会社運営を行えますし、会社の株式を子に贈与(相続)すれば、後継者がそのまま事業を引き継げます。
そして経営者が変わっても法人は存続しますので、取引先や銀行への影響も最小限に抑えられるのもポイントです。

法人化による3種類のデメリット

一見すると、個人事業主は全員法人成りをした方がいいように思えます。
しかし法人化にもデメリットは存在し、特に事務作業や手続き面でのコストが増えます。

デメリット1 法人登記には手続き費用が発生する

法人として事業を行う場合、登記手続きを行わなければいけません。
個人事業主として商売を行う際は、税務署に開業届を提出するだけで事業を開始できますが、法人は法務局で登記申請が必要です。
また登記手続きには、登録免許税の支払いや、定款作成や実印作成による諸費用もかかります。
個人事業主本人が手続きを行うことも可能ですが、用意すべき書類は多く時間と労力も要するため、司法書士に依頼し、対価として報酬を支払うのが一般的です。

デメリット2 事務手続きの増加と確定申告書の複雑化

法人は、個人事業主以上に帳簿管理を厳格に行わなければならず、法人税の申告書は専門知識がないと作成は困難です。
実際、ほとんどの法人は申告書作成を税理士に依頼しており、平成30年度の法人税の申告書の税理士関与割合は89.1%です。


参考:平成30事務年度国税庁実績評価書(財務省)
https://www.mof.go.jp/about_mof/policy_evaluation/nta/fy2018/evaluation/index.html

また法人は個人事業主よりも数が少ないため、申告件数あたりの税務調査の割合は高く、税理士が関与のない法人は、税務署から狙われやすい傾向にあります。

デメリット3経営が赤字になっても維持管理費として税金を支払う必要がある

法人は赤字でも、法人住民税として一定金額を支払うことになります。
たとえば東京都に法人の事務所がある場合、均等割として最低7万円を毎年納めなければなりません。
均等割の支払いは個人でもありますが、その地域に住んでいる人が支払うものであり、個人事業主だけが納める税金ではないです。
そして個人の均等割は東京都で5,500円(令和5年度まで)と、法人の均等割よりも低いため、個人から法人に変更することで維持管理費は増えてしまいます。

法人成りをする際は事前に専門家の意見を聞くこと

法人化による節税効果は期待できる反面、登記手続きや事務作業の増加はデメリットです。
また法人は事業が赤字でも税金を納めることになりますので、経営が悪化した際のリスクも考慮しないといけません。
最終的な決断をするのは個人事業主ですが、判断材料として専門家の意見を聞いてから法人成りをしても遅くはありませんので、一度ご検討してください。

この記事の監修

植村悦也
植村悦也
税務調査専門の税理士

元税務署長・元マルサ担当官などをパートナーに、税務調査専門の税理士として年間100件以上の相談を受ける税務調査対策のプロ。
追徴税額を0円にした実績も数多く、Googleクチコミ4.9という人気を得ている。

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