個人事業主として一定以上の売上がある場合、法人成りも選択肢です。

法人は個人よりも税制面でのメリットが多く、同じ利益が発生しても税金として納める金額を抑えることも可能です。

税率以外の利点も法人成りにはありますので、本記事でメリットと法人成りする際の注意点を解説します。

法人税は所得税よりも最高税率が低い

法人成りの最大のメリットは、個人事業主が納める所得税よりも法人税の方が税率が低い点にあります。

所得税の最高税率は45%なのに対し、法人税の最高税率は23.2%と約半分です。

所得税の税率は5%から45%と、課税所得金額が上がるに伴い税率は上昇し、利益が少ない場合は個人事業主の方が税率が低くことも考えられます。

所得控除等を差し引いた後の課税所得が800万円になると、所得税と法人税の税率は同程度になるため、個人事業主として1,000万円以上の利益がある方は、法人成りをした方が節税できます。

法人は個人よりも経費計上できる範囲が広い

個人事業主の場合、プライベートで支出した金額は経費にできません。

自宅の一部を作業場としている場合、仕事場のスペースに対する家賃しか経費計上できないため、公私で使っている物などは按分計算が必要になります。

それに対して法人は、原則支出した金額を経費として計上できますし、個人よりも税金対策がしやすいです。

役員報酬は法人の経費になる

役員報酬は、代表取締役や取締役に対して支給する報酬です。

法人成りをした場合、個人事業主だった人は代表者として役員報酬を受け取ることになりますが、役員報酬は定期同額が原則です。

個人事業主は事業利益が所得税の課税対象になりますが、会社から報酬を得られるようになれば報酬金額は一定なため、会社の利益が増えても所得税として納める金額は増えません。

また役員報酬は会社にとっての経費です。

事業に従事している家族を役員にすれば、家族への報酬金額を経費として計上できます。

社員の福利厚生

福利厚生とは、会社が従業員のために行う給与以外のサービスです。

福利厚生には法的に義務づけられた「法定福利」と、会社が任意で行う「法定外福利」の2種類あります。

法定福利には年金保険や介護保険などが該当し、会社の経費として計上できます。

法定外福利には配偶者手当や育児手当、弔慰見舞金などがあり、法定外福利も原則として経費計上が可能です。

たとえば個人事業主がプライベートで旅行をしても、旅行費用を経費にはできません。

しかし会社が福利厚生の一環として社員旅行を行った場合、要件を満たせば旅行費用を経費にできる点も法人成りした際の利点です。

法人の赤字は10年間繰り越し可能

法人の欠損金(赤字)の繰越期間は最長10年です。

個人事業主の繰越期間は最長3年なので、法人の方が長期にわたって損益通算が可能になります。

会社設立時は初期投資費用で赤字になりやすい

赤字を前提に起業する人はいませんが、法人を設立する際は初期投資が必要となるため、赤字になりやすいです。

事業内容によっては数年単位の赤字を見込まなければいけないケースもあるため、個人の繰越し可能期間3年で控除しきれない赤字が発生する恐れもあります。

しかし法人であれば10年間赤字を繰り越せるため、長期的なスパンで事業展開する場合は、個人事業主よりも法人の方が赤字を上手く活用できます。

10年繰越しは青色申告が前提

赤字繰越制度を利用できるのは、青色申告者に限定されています。
青色申告の申請期間は、事業年度開始日の前日までに申請書を提出するのが原則です。

例外として、申請するタイミングが普通法人が設立日の属する事業年度の場合は、設立日以後3か月を経過した日と当該事業年度終了の日、いずれか早い日の前日までに青色申告書の承認の申請をすれば青色申告を適用できます。

法人成りする場合の注意点

個人事業主よりも法人として事業を展開するメリットは多いですが、法人成りをする際に注意すべきポイントもあります。

法人成りする際には費用がかかる

個人事業主は税務署に開業届を提出すれば事業を開始できますが、法人は登記手続きが必要です。

また法人を設立する際には、定款認証や登録免許税、社印の作成などの費用がかかります。

事務処理・確定申告手続きが増加する

社員を雇えば給与の支払いや、税金の支払いは会社が行うことになるため、個人よりも事務作業量が増加します。

法人税は所得税よりも複雑であり、一般の人が法人税の申告書を作成するのは難しいです。

申告書を作成しても、内容に間違いがあれば税務署から指摘を受け、加算税・延滞税といった余計な税金を支払うことになります。

また税務署は申告誤りが発生しやすい、税理士関与の無い法人への税務調査を積極的に行う傾向があります。

法人税の税理士関与割合は89.3%(令和元年度)と、所得税の20.3%(令和元年度)より69%も関与している割合が高いです。

そのため申告書作成を依頼しない場合は、所得税の申告書よりも一層慎重に作成しなければなりません。

法人成りをする際は専門家に相談すること

法人成りは、法人税の税率や節税しやすさなど、個人事業主よりも税金面で優れています。

一方で、設立時の費用や事務作業量の増加は、法人成りをする場合には避けることはできません。

確定申告は毎年やらなければいけない作業ですし、税務調査を受ければ余計な税金を納めることになります。

そのため法人成りをする際は、会社設立の手続き面と節税面の双方の観点から、事前に専門家へ相談することをオススメします。

この記事の監修

植村悦也
植村悦也
税務調査専門の税理士

元税務署長・元マルサ担当官などをパートナーに、税務調査専門の税理士として年間100件以上の相談を受ける税務調査対策のプロ。
追徴税額を0円にした実績も数多く、Googleクチコミ4.9という人気を得ている。