税務署は、税金を回収するために税務調査を実施しますので、赤字会社は調査しないと思うかもしれません。
しかし赤字から黒字に転換すれば法人税を納めることになるため、赤字会社にも税務調査は来ます。
本記事では、法人税調査を受ける割合や、赤字会社に税務署が実施されるケースについてご説明します。

法人税調査の実績と赤字法人への調査件数

法人税の税務調査は年間9万9千件実施されている

平成30年事務年度の法人税の申告件数は292万9千件で、そのうち黒字申告は101万7千件(34.7%)に留まり、約3分の2の会社は赤字申告(黒字申告以外)をしています。
また国税庁が公表している『平成30事務年度 法人税等の調査事績の概要』によると、平成30事務年度の実地調査件数は9万9千件ですので、申告した法人の3%以上は法人税の実地調査(※)を受けている計算です。
※実地調査とは、税務署の調査担当者が自宅や会社を訪問して行われる調査です。


参考:平成30事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要(国税庁)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/hojin_shinkoku/pdf/hojin_shinkoku.pdf
参考:平成30事務年度 法人税等の調査事績の概要(国税庁)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/hojin_chosa/pdf/hojin_chosa.pdf

実地調査の1割は赤字法人を対象とした調査

少し古い資料になりますが、平成20事務年度に行われた実地調査件数は14万6千件のうち、赤字申告をした法人に対する実地調査件数は16,213件です。
つまり全体実地調査件数の約11.1%は、赤字申告に対する調査であり、赤字法人でも税務調査を受けます。
また税務調査を受けた赤字法人のうち、8件に1件は赤字から黒字に転換しています。
黒字になれば法人税を支払うことになり、税務調査による黒字化であれば、本税以外に加算税・延滞税の罰金も納めなければなりません。

<赤字申告法人に対する実地調査(法人税)件数>

項目平成20事務年度
実地調査件数16,213件
更正・決定等の件数10,855件
不正のあった件数3,522件
黒字に転換した件数1,965件

出典:赤字申告法人に対する実地調査の事績(国税庁)
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/release/h21/chosa_jiseki/03.htm

税務署が税務調査を実施する赤字会社の特徴

赤字会社に対し、税務署が税務調査を実施するケースは3つ考えらます。
<調査対象となる赤字法人の特徴>

  • 赤字を装っている疑い
  • 消費税の還付を受けている場合
  • 赤字の損益通算をしている

赤字の疑いがある会社は税務調査を受けやすい

法人税は利益部分に対して課税されるため、経費を多く使うことで利益を圧縮し、法人税の支払いを抑えることもできます。
そのため利益が発生した年に設備投資など、支出のタイミングを変えるだけでも節税効果はあります。
なお売上げを除外したり経費を水増しすれば、赤字に見せかけることも可能です。
しかし当然ながら脱税は違法であり、税務調査で脱税を指摘されれば、重加算税が課税されますし、逮捕に至るケースもありますのでご注意ください。

消費税の不正還付を防ぐために税務調査が行われる

黒字の会社では消費税の課税売上げから、課税仕入れを差し引いた金額を納めます。
一方赤字会社は、課税売上げよりも課税仕入れの金額が多くなるため、申告することで消費税の還付を受けられます。
還付申告自体に問題はありません。
ただ意図的に赤字額を水増して、消費税の不正還付を受ける会社もあるため、税務署は赤字申告をした法人に対しても税務調査を行います。

損益通算を利用することで納税額を抑えられる

法人税の青色申告をしている場合、赤字を最大9年間繰り越すことが可能です。
大幅な黒字の年分があっても、前年以前に同等以上の赤字があれば、損益通算することで法人税の支払いを抑えられます。
一方、損益通算した前年以前の赤字額に誤りがあれば、相殺できる金額は減少しますので、税務署は申告書を連年で調べるのが一般的です。
そのため損益通算した申告書を提出した場合は、過去の赤字申告も併せて調査が行われると考えてください。

税務調査を実施するメリットが無ければ税務署は調査しない

法人税の申告件数よりも、税務署職員の方が圧倒的に少ないため、税務調査を受けない会社も存在します。
実地調査は、赤字を装っている会社や消費税の不正還付を受けている会社など、脱税や申告誤りが見込まれる申告書から優先的に行われます。
税務署の立場からすると、黒字申告に比べ赤字申告を調査するメリットは少ないです。
また赤字会社の損失額を指摘しても、黒字に転換しなければ納税額は発生しませんので、赤字会社が税務調査を受ける確率は、黒字会社よりも低いです。

まとめ

赤字申告でも税務調査を受ける可能性はあります。
しかし基本的税務調査は、黒字申告に対して行われますので、過度に心配する必要はありません。
ただ税務署からの指摘により赤字から黒字に転換すれば、税金を支払うことになります。
損益通算をした赤字申告や、節税による赤字申告は調査対象となりやすいため、赤字・黒字に関係なく申告書は正しく作成してください。

この記事の監修

植村悦也
植村悦也
税務調査専門の税理士

元税務署長・元マルサ担当官などをパートナーに、税務調査専門の税理士として年間100件以上の相談を受ける税務調査対策のプロ。
追徴税額を0円にした実績も数多く、Googleクチコミ4.9という人気を得ている。

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